【台北】鳥居が立つ林森公園-台湾を愛し、台湾に愛された総督

MRTの中山駅から徒歩5分ほど。台北市内の林森公園に2基の鳥居があるのをご存知でしょうか。御神木のように大きく立派なアコウの木の下、大小の鳥居が周りを見わたすかのように立っています。

台北のど真ん中に位置するこの公園に日本人が知らないで訪れたら、多分不思議な気持ちになるのではないでしょうか。



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▲広々として緑豊かな林森公園内の2基の鳥居



*台北の人々の生活に溶け込む日本の象徴


ふらりとここを訪れると、散歩途中のお年寄りや太極拳をしている人々、犬の散歩、ベンチに座って本を読んでいる方々を見かけます。この場所は市民の憩いの場になっているようですね。まるで鳥居が人々を見守っているように思えます。近寄ってみると小さな鳥居の柱の根元には「昭和十年十月、有志建之」と文字が刻まれています。これも台湾に残された日本の痕跡の一部。さて、この林森公園は元々神社だったのでしょうか。


鳥居のそばにある案内板によると、この場所は昔は三板橋と呼ばれ、清朝時代には兵舎が設置されていました。

日本統治時代に第三代台湾総督である乃木希典の母親がこの場所に埋葬されてから日本人墓地になっていったそうです。




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▲明石総督を紹介している案内板と鳥居に彫られた「昭和十年十月」の文字



50年もの間歴史に埋もれ、そして台湾人の手で救い出された



この鳥居は第七代台湾総督を務めた明石元二郎の墓前に建てられた鳥居で、小さい鳥居は明石総督の秘書官を務めた鎌田正威の墓に建てられた鳥居だといわれています。

明石総督は在任1年4ヵ月。大正8年(1919)本土へ渡航中に病を患い、故郷の福岡で亡くなられました。その時の遺言により、御遺体は台湾に運ばれてこの地に埋葬されました。


戦後この日本人墓地には大陸から移動してきた国民党兵士などが住み着いて、次々と違法にバラックが建てられ、鳥居やお墓はだんだんと埋もれていきました。彼らは墓石などをテーブルにしたり、椅子の代わりに座ったりしたのでしょうか???

バラック時代の鳥居の写真はネットで探すと見ることができますが、家の支えの一部のようになっていました。なんということ・・・。

長期にわたる国民党政権は、それらを黙認してきたのでしょう・・・。


1994年、民進党の陳水扁氏が台北市長になった時、1997年にこの場所が公園として整備される事になりました。そして乱立した違法住居が撤去された時に、この鳥居が発掘されたのです。

元々3基の鳥居があったそうですが、バラック撤去の時には見つかっていないので、たぶん1基は壊されてしまったのでしょう。

この時に発掘された明石総督の遺骨は、台湾の北端に位置する三芝郷のキリスト教墓地に移され、他の遺骨は台中にある金色の大きな大仏様で知られる宝覚寺の日本人遺骨安置所に移されました。これは台湾人の手によって行われたことで、日本人として感謝の気持ちを持たずにはいられません。発掘された2基の鳥居は当初二二八和平公園に移されましたが、2010年に元のこの場所に帰って来ました。

陳水扁氏は2000年に台湾総統となり、辛亥革命から続いた中華民国始まって以来、野党だった民進党がはじめて政権を握りました。その後国民党に政権は戻りましたが、昨年再び民進党が政権をとることになりました。そんな彼らに私は台湾の未来を感じずにはいられません。



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▲林森公園は早朝訪れると、とても清々しいです



*凄腕のスパイ、明石元二郎


明石元二郎は江戸時代末期の1864年、黒田長政を初代藩主にもつ福岡藩の藩士の元に生まれました。大坂の陣で豊臣方についた五人衆の一人、キリシタンだった明石全登の末裔だという説もあります(調べてみたら、明石全登とはまったく関係がないわけではなさそうです)。

小さい時から頭脳明晰であり、また腕白でも知られていました。

陸軍軍人になってからは日清戦争で台湾が割譲された際、北白川宮能久親王とともに近衛師団参謀として台湾へ出征しました。

北白川宮能久親王といえば、前回の汐止神社で紹介した、日清戦争後の台湾征討近衛師団長として出征し、台南で薨去された皇族の方です。

明石元二郎の奇抜な発想と大胆な行動は、時に北白川宮能久親王を楽しませ、気に入られていたようです。

日露戦争ではその行動力と頭脳を活かして諜報活動でヨーロッパ各地を飛び回り、日本の資金を使って反ロシアグループの支援をし、ロシア国内を撹乱させました。そしてロシアは日本との戦争へ全面的に力を注ぐことができずに日露戦争で敗北したのです。
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もびっくりするほどの凄腕のスパイとして、歴史の世界では有名らしいです。戦の駆け引きなどに長けた戦国武将の血が引き継がれていたのでしょうか・・・。

日露戦争が終わり、1917年のロシア革命でロシア帝国は崩壊しました。

そしてレーニンによるソビエト連邦が生まれることになりましたが、明石元二郎がソビエト連邦誕生へと、世界の歴史を動かしたといっても過言ではありません。しかし、このソビエト連邦が(レーニンに代わりスターリンの代の時)第二次世界大戦の土壇場で日本に牙を向けたとは皮肉です。




*第七代台湾総督へ


明石元二郎は日韓併合でも活躍し、その後台湾総督になりました。

そして同時に陸軍大将へ昇進します。

日本に帰省中に福岡で命が尽きることになるまでの1年4ヵ月、この間に彼が台湾でしてきたことは、西の海岸線に鉄道を引いて輸送力をアップし、日月潭にダム湖を作って台湾の発電能力を高め、八田與一で有名な烏山頭ダムなどの台湾の農業力の推進。

歴代の総督が進めてきた事業の総仕上げを、短期間で精力的に行なったのです。これらの結果、台湾人の生活は向上していきました。

他にも、台湾人も平等に教育が受けられるように法を改正。

西洋の植民地では、現地人に教育を受けさせるなど考えられないことです。賢くなられては、いずれ抵抗されることになりかねないからです。

明石元二郎の台湾での政策に影響を及ぼしたのは、若かりし頃フランスのベトナム統治の視察で見た植民地の現状、ロシアでの諜報活動で見た帝政ロシアへの人々の不満・・・。

武士の身分に生まれたことから、常に人の上に立つということを意識して生きてきたのかもしれません。

歴代台湾総督の中で一番台湾人のためを思い、台湾発展の礎を築いた総督だと思います。

そして唯一、自身の希望で台湾の地に眠った総督でもあります。
明石総督は、自分が死んだら台湾に埋葬してほしいという遺言を残しました。そして台湾の日本人墓地に埋葬されるということが伝わると、台湾人からも寄付金が集まり、立派なお墓が立てられたそうです。

1997年に発掘された時にも、明石総督のお墓を移す際に、また台湾中から寄付金が集まったようです(蔡焜燦氏著『台湾人と日本精神』による)。

台湾人の間では、未だに尊敬されている人物なのでしょう。


世界を股にかけて大活躍した明石元二郎は、日本の近代史にはなくてはならない人物だと思うのですが・・・、今の日本でどれだけの人が、彼の名前を知っているのでしょうか。





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▲御神木のような大きな木の下に鳥居は立つ。ガジュマルだと思いきや、アコウの木のようです



第七代台湾総督・明石元二郎、大河ドラマの主人公にもなれそうなバイタリティを持った興味深い人物だと思います。

明石総督は今も台北の中心、林森公園から台湾を見守っているのではないでしょうか。

台湾を訪れた際には、林森公園のこの鳥居から台北の街並みを眺めながら、台湾の遠い昔に思いを馳せてみるのも、旅の思い出になるでしょう。



☆上記は2016年3月27日にWEBサイト「世界ガイド」に投稿した記事をリライトしました。


この記事へのコメント

  • haru

    こんにちは。
    初めてコメントします。
    明石元二郎については、大変な業績を残した人物なのに、ほとんどの日本人はその偉大さを知りません。お名前も知らない人もいます。そういう私も、台湾に観光にいって初めて知った次第です。
    NHKドラマ「坂の上の雲」では、どういうふうに出てくるか、楽しみにしていたのですが、全く残念な演出で本当にがっかりしました。   世界を動かすほどの傑物、明石元二郎。台湾では今でも愛されている明石元二郎。
    もっと多くの人に、特に、若い世代に知ってもらいたいですね。
    こんなすごい日本人がいたんだと誇りに思ってほしい。
    と、常々思っていたところ、
    来月発売の「歴史街道」で、明石元二郎の特集があることを知りました。『世界の歴史を変えた日本人 明石元二郎の生涯』著者、清水氏の記事等も掲載されるようです。注目されることが少ないので、この特集はとても嬉しいです。


    2017年02月10日 11:15
  • うえぽんぐ

    haruさん、コメントありがとうございます。
    仰るとおりですね!
    私も台湾で初めて明石元二郎さんのことを知りました。
    「歴史街道」は自分にとっても興味深い特集をよくやっているのでチェックしています。
    次号楽しみですね!
    2017年02月12日 02:24
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